多良間島 離島の旅

明るく開かれた島の暮らしは、いつも特別な島言葉と共に。

 「言語」なのか「方言」なのか、定義は相対的なものであり、明確な規定はないのだという。ただし、日本語とは違う言葉として琉球語があり、その一つの”方言” に多良間島の「たらまふつ」はある。「ふつ」とは、多良間島の言葉で “方言”という意味。
 「たらまふつ」の研究者である沖縄国際大学の下地賀代子准教授は、多良間村教育委員会が発刊している『たらまふつ辞典』の編著者でもある。下地先生は、宮古島と八重山諸島の中間に位置する多良間島の言葉は、まさしく中間方言であり、「たらまふつ」の存在によって「南琉球方言という大きな方言圏(言語圏)として捉えることができる」と考えている。宮古方言と八重山方言、双方の特徴を持っている「たらまふつ」はしかし、どちらの島の人が聞いても、ほとんど何を言っているのかわからないという。多良間島という人口わずか1200人足らずの小さな島だけで話されている言葉を追ううちに、独特の世界に導かれていった。


「トゥンジャク」について語る野原博さん、正子さん夫妻

言葉が先か、思想が先か。

 野原博さん、正子さん夫妻が沖縄本島の病院の売店で、たらまふつで会話をしていたら、あまりにテンポのいい掛け合いに、大賑わいになってしまったそうだ。まるでラップのようにスムースに、漫才のようにアクセントのある掛け合い。多良間島の明るさが、言葉に反映されているようだった。博さんがたらまふつで話し、続いて正子さんが通訳をしてくれる。「トゥンジャク」という言葉を教えてくれた。サトウキビの管理作業のことも、子育てのことも、どちらも「トゥンジャク」と呼ぶという。「子どもを上手に扱うのも、畑の世話をするのもどちらもトゥンジャク。面倒を見れば、その分だけきちんと育つっていうことなんですかね。はい」と博さん。言葉が先か、思想が先か。多良間島の人々が何を大切に暮らしているかが、たった一つの単語からも伝わるではないか。
「自分の島の言葉が話せなかったらいかんよ」と正子さんは言う。本島や宮古で暮らしている4人の子どもたちが里帰りした時には、一緒にやってくる小学生の孫たちにもたらまふつを教えている。
「あなたたちもたらまふつ勉強したらいいさ。泡盛もあるから、手ぶらで来ていいから(笑)」

言葉は、時代によって変わる。

 残念だが現在では、たらまふつは島で生まれ育った人ならば誰もが話せるわけではない。戦後、日本復帰をした後、早く日本に同化するようにと、「方言を使ってはいけない」という教育がなされた。野原さん夫妻も体験したという『方言札』は、学校で方言を使った子どもに『私は方言を使いました』という札を首から下げさせるというもの。標準語で話すことを強制させられ、言葉は少しずつ奪われていった。『方言札』を境に、たらまふつは少しずつ衰退していく。昭和の時代の話。ただし、幸運にも野原夫妻のようにたらまふつを話すことができる「おじいおばあ」と一緒に暮らすことのできた家庭では、現代でも次の世代へと引き継がれている。
 30代の亀山隆則さんは、実家で祖父母と一緒に暮らしていたおかげで、「酒が入ると方言が出てくる」という。聞くのはほとんどわかるけれど、しゃべるのが難しいのだそうだ。年配の方に聞くと、自身の言葉はアクセントが違うと言われる。特に語尾が変化する敬語が難しいとか。古い慣習が今も色濃く残る島の暮らしでは“先輩方”と話す機会も多く、島で話を聞いた多くの人が、「敬語がね〜」と話していたのが印象的だった。言葉を追っていると、島のあり方が見えてくる。
 亀山さんの息子、中学3年生の飛龍くんの世代になれば、話すことができる子どもはほとんどいない。たらまふつでも、おおよそ話が把握できる飛龍くんは、貴重な子どもだろう。祖母の影響から三線が好きになり、郷土文化芸能部がある高校を選ぶつもりだという。たらまふつの民謡も多くある。彼らの世代はたらまふつと標準語を混ぜてしゃべり、おじいたちに言わせれば“間違った言葉”だが、彼らなりのたらまふつを話すようになっている。言葉は時代に合わせて進化していくものでもある。



たらまふつの今昔を語る湧川和子さん

道端で神に祈る人々。

 多良間島では毎月のように年中行事があって、たらまふつが当たり前に話されている。取材当日は、ウガンプトゥキという、御嶽に一年の感謝を捧げる行事が行われていた。聖なる場所である御嶽に立ち入ることさえ許されない島もあるというのに、多良間島では「はい、あなたたちも入って入って」と一緒に拝むように促され、御嶽に捧げる泡盛も「みんなで飲まなきゃいけないから、ほら」とすぐに盃を回してくれる。鳥居が設えられていて、一目でそれとわかるような空間もあれば、「道端ですよね?」というような御嶽もあって、信仰の不思議を思わずにはいられないのだが、天ぷらやかまぼこと泡盛を捧げて回っていく。ウガンプトゥキの最中の会話は、最初はたらまふつだったのが、次第に我々に気を使ってか標準語で話してくれるようになった。「わからない若い人がいると気を使って標準語で話しちゃうからね」と、一緒に回っていたおじいが言った。「本当は気にせず話した方が、島の子たちにもたらまふつの勉強にもなるんだけど」と。
 数カ所の御嶽を回って、夕暮れ時にゴザを敷いて酒盛りが始まる。「あんたたちも、ほれ。これで帰ったら神様に失礼だからね」と座るように促されて、ご相伴に預かる。おじい同士で話すときにはたらまふつで、こちらに話しかけるときには標準語。完全なバイリンガルの会話。一人ずつ口上を述べて、一つの盃をみんなで回していくオトーリも、たらまふつで話してから、標準語で説明してくれる。「ヤマトからも参加してくれた人たちがいて、神様もきっと賑やかで喜んでいるでしょう」と、おじいが話してくれた。30代にも、たらまふつを話す青年がいた。
 生きているたらまふつは、島の夕暮れになんとも心地よく響く。こうして、島の大事なものが、言葉と共に渡されていくのか。たまたまそこに居合わせた人間にさえ、その心地よい言葉の響きと共に、多良間島の何かが渡されたような気がする。

DATA

  • 多良間島の面積:19.75km²
  • 多良間島の周囲:約26.2km
  • 多良間島の民数:1,171人(527世帯)
    ※平成29年11月末現在
  • 多良間島へのアクセス:
    宮古空港より飛行機にて約20分
    詳しくはこちら >>
    宮古島よりフェリーにて約2時間(日曜日運休)
    詳しくはこちら >>
  • その他問い合わせ先:多良間村役場観光振興課
    TEL.0980-79-2260
  • 島の飲食店:4店*
  • 島の宿泊:9店*
  • 島の商店:7店*
  • 島の観光案内:1施設*
  • 島のレンタカー会社:5社*
  • 島のレンタサイクル:3社*
*2017年現在

多良間島では2017年12月現在、ハブの生息は確認されておりません。

COCOハウス

住所:沖縄県都郡多良間村字塩川153
電話:0980-79-2133

ペンションあだん

住所:沖縄県宮古郡多良間村字塩川528
電話:0980-79-2088 年中無休

多良間島観光サービス

住所:沖縄県宮古郡多良間村字塩川102
電話:090-9785-0639

池城商店

営業時間:7:30-20:30 定休日:不定休
住所:沖縄県宮古郡多良間村字仲筋88
電話:0980-79-2146

Aコープ/生活資材 たらま店

営業時間:9:00-19:00 定休日:年中無休
住所:沖縄県宮古郡多良間村字塩川158
電話:0980-79-2339

丸宮旅館

住所:沖縄県宮古郡多良間村字塩川141
電話:0980-79-2881 年中無休

夢パティオたらま

住所:沖縄県宮古郡多良間村字塩川18
電話:0980-79-2988 年中無休

みどりや旅館

営業時間:11:30~無くなり次第終了
定休日:不定休
住所:宮古郡多良間村字塩川142
電話:0980-79-2232

居酒屋 凪

営業時間:18:30~22:00 定休日:月曜日
住所:沖縄県宮古郡多良間村字塩川187
電話:0980-79-2750

そのほかの魅力

ふるさと民俗学習館

多良間島の暮らしの成り立ちを見ることができる。古い民具や祭具のほか、八月踊りをはじめとした島の伝統行事の際に用いられる芸能用具なども展示されている。

ふるさと民俗学習館

住所:沖縄県宮古郡多良間村仲筋1098-1 電話:0980-79-2223
開館時間、入館料についてはこちら >>

八重山遠見台

近隣の島を眺めることができる展望台。平坦な島である多良間島をほぼ一望できる。周囲には、フクギやイヌマキなどの植物が群生している。かつて使われていた石積みの遠見台も公園の敷地内に残されている。

みどり屋旅館のそば

食堂のない多良間島で、唯一、そばが食べられるのがみどり屋旅館。
メニューも、そば500円、そば大700円、焼そば700円ととても
シンプル。

みどりや旅館

住所:沖縄県宮古郡多良間村字塩川142 電話:0980-79-2232
営業時間:11:30~無くなり次第終了 定休日:不定休

たらま花茶

たらま花とは、琉球王国に献上されていた紅花のこと。保存会の婦人たちが無農薬で育て、手摘みしてブレンドしているハーブティー。
ほかに月桃、レモングラス、グアバ、長命草などが入っている。島内のAコープなどで購入できる。

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